てくれたことは、不幸中の幸であると思った。この上は、この焼け布片は大切に保管し、二度とこんなことにならないようにしなくてはならないと思った。姉川五郎は、黄金メダルを握って、どこへいったのであろうか。
二つに割れている黄金メダルの一つは、こうして春木少年の手からはなれてしまった。もう一つは、六天山塞《ろくてんさんさい》の頭目《とうもく》四馬剣尺《しばけんじゃく》の手から猫女《ねこおんな》の手へ移った。このあと、この二つの貴重なる黄金メダルは、いかなる道を動いていくのであろうか。メダルの二つの破片がいっしょになるのは何時のことか。
それにしても、この黄金メダルに秘められたる謎はどういうことであろうか。事件はいよいよ本舞台へのぼっていく。
少年探偵なげく
まったく春木少年は、がっかりしてしまった。
もうなにをするのも、いやであった。自分のすることは何一つうまくいかないことが分った。彼はすっかりくさってしまった。
瀕死《ひんし》の戸倉老人が、いのちをかけて、かれ春木少年にゆずってくれた大切な黄金メダルの半ぺら! あれが、今ではもう彼の手にないのだ。
(お稲荷さまだから、どろぼうから守ってくれると思っていたのに……)
境内《けいだい》の木の根元に、うずめたのが運のつきであった。誰かがさっそく掘りだして持っていってしまった。
(きっと、あの祠に寝起《ねおき》している男にちがいない)
春木少年は、あれからいくどもお稲荷さんの崖《がけ》にのぼって、裏手からそっと祠をのぞいた。だが、いつ見ても、破《やぶ》れござが敷きっぱなしになっているだけで、主人公の姿は見えなかった。
春木は、がっかりしたが、いくどでもくりかえしあそこへいってみる決心だった。
黄金メダルを盗まれたことも、くやしくてならない大事件だったが、それよりも町中にひびきわたった大事件は、牛丸平太郎《うしまるへいたろう》少年がヘリコプターにさらわれたことだった。
なにしろ、そのさらわれ方が、あまりに人もなげな大胆なふるまいで、親たちも近所の者も手のくだしようがなく、あれよあれよと見ている目の前で、ヘリコプターへ吊りあげられ、そのまま空へさらわれてしまったのだ。
警官隊の来ようもおそかった。またたとえ間にあったとしても、やはりどうしようもなかったにちがいない。飛行機を持っていない警官隊は、どう
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