れをぼさぼさ頭にのせたところを見ると、型はくずれているが、船乗《ふなの》りの帽子だった。それから彼は、賽銭箱《さいせんばこ》の中から破れ靴をだして足につっかけズボンをひとゆすり、ゆすりあげてから、悠々と石段を下りていった。
こんな一大事が発生しているとは知らず、春木少年は八時ごろにお稲荷さんへのぼってきた。
昨夜、宝ものを椋の木の根方に埋めたが、埋め方がうまかったかどうか、それを検分するために、彼は朝早く崖をのぼってやってきたのである。
「ああッ!」彼の目は、すぐさま、異常を発見した。椋の木の根方はむざんに掘りかえされてある。春木少年は青くなって、そこへとんでいった。
「やられた」土の上に膝をついて、掘りかえされた穴の中を探ってみたが、昨夜彼が埋めたものは、影も形もなかった。そばを見れば目印においた丸石が放りだしてある。彼はがっかりした。そこに尻餅をついたまま、しばらくは起きあがる力さえなかった。
(失敗《しま》った。やっぱり、机の奥にしまっておけばよかったんだ。あわててもちだしたり、うっかりこんなところへ埋めたり、とんでもないことをしてしまった。せっかく戸倉老人が呉《く》れたのに、おしいことをした。……しかし誰がここから掘りだして持っていったのだろうか)
春木少年は、大がっかりの底から、ようやく気をとり直して立ち上った。
(なんとか取返したいものだ。まだ、絶望するのは早かろう)
少年は、推理の糸口をつかみ、それからその糸を犯人のところまでたぐっていくために、境内《けいだい》をぶらぶらと歩きだしたが、そのとき生々しい足跡が祠の前からこっちへついているのを発見し、
「これかもしれない」
と、緊張した。彼は祠の中をのぞきこんだ。
その結果、彼は姉川五郎の寝室があるのを見つけた。
「ぼくはうっかりしていた。ここにいた男に見られちまったんだよ」くやし涙が、春木少年の頬《ほお》をぬらした。いくらくやんでも諦《あきら》めきれない失敗だった。
もしや祠の中のどこかに黄金メダルをかくしていないであろうかと思い、彼は祠の中へはいあがって、念入りにしらべた。だが、そんなものはあろうはずがなかった。ただ、彼は祠の破れ穴のところに、絹の焼け布片がひっかかっているのを発見し、声をあげてよろこんだ。
黄金メダルとこれとの両方を失ったかと思ったが、焼け布片だけでも自分の手にもどっ
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