どんどん、どんどんどん。かあちかち、かちかちッ。
 にぎやかに山を登っていった一行は、生駒の滝の前に焚火があるのを発見し、それに力を得て近づいてみると、当の春木君が火のそばで、いい気持にぐうぐう睡っているのを見出し、やれやれよかったと、胸をなで下ろした。
 二人は、もう一度叱られ直して、山を下り、無事にめいめいの家へはいった。
 その翌日になると、二人のことは町内にすっかり知れわたり、学校からは受持の先生が見えるというさわぎにまでなって、ふだんはのんき坊主の二人もすっかりちぢこまってしまった。
 生駒の滝事件のことは、二人の口からもれたので、遂には警察署にまで伝わり、その活動となった。二少年も証人として現場へ同行した。
 機銃弾は発見されたが、血だまりは雨に洗われたためか、はっきりしなかった。
 ヘリコプターがとんできて、空中|吊上《つりあ》げの放《はな》れ業《わざ》をやったことは、牛丸少年の話だけで、それを証明するものがなかった。この次に、そういうものが飛んでいるのを見たら、気をつけることに申合わせができただけだ。
 春木少年は、戸倉老人からゆずられた黄金メダルなどのことについては、遂にいわなかった。彼は、そのことについて牛丸に話すこともしなかった。彼は、このことについてゆっくりと、自分でできるだけの研究をしてみたいと思った。その上で、話した方がいい。時がきたら、牛丸にも話をするつもりだった。
 なにしろ瀕死《ひんし》の戸倉老人が彼に残していったことばによると、黄金メダルの件は、非常な機密であって、うっかりこれに関係していることを洩《も》らしたが最後、思いがけないひどい目にあうにちがいないと思われた。現に、あの好人物《こうじんぶつ》の老人がむごたらしく瀕死の重傷を負っていたこと、それにつづいて牛丸君が見たとおり、老人がヘリコプターで誘拐《ゆうかい》されたそのものものしさから考えて、これはうっかり口にだせないと、春木少年を警戒させたのだ。
 だが、春木少年は、その謎を秘めた宝の鍵・黄金メダルの片われと、小文字でうずめられた絹《きぬ》ハンカチの焼けのこりを、いつまでも厳封《げんぷう》して机のひきだしの奥に収《しま》っておくことはできなかった。それは三日目の夜に入ってのことであったが、春木君は自分の勉強部屋にはいって、ぴったり扉をしめて錠をかけ窓にはカーテンを引き、それ
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