から例の二つの宝の鍵の入った包を取出して、机上《きじょう》のスタンドのあかりの下に開いてみた。ぴかぴか光る三日月形《みかづきがた》の黄金片と、焼けこげのある絹ハンカチの一部とは、共に無事であった。
「ああ、ちゃんとしていた」
と、春木少年は自分の胸をおさえた。
「ふふふふ。ぼくは、この間の事件から、いやに神経質になったようだぞ。こんなものは、何んでもないんだ。おもちゃみたいなものだ。あの戸倉とかいった老人は、気が変になっていたんじゃないかなあ」彼は、今までと反対の心になって、二つの宝の鍵をばかばかしく眺めた。
「だが、これはほんとの金かな」
彼は、黄金メダルを手にとって撫《な》でてみた。なかなか美しい。そして重い。やっぱり黄金《きん》のように見える。黄金なら、これだけ売っても大した金になる。
(いっそ、売ってしまってやろうか。売ってしまえば、めんどうなことはなくなる。それがいい、そのうち貴金属商《ききんぞくしょう》に、そっと見せて、値段がよければ売ってしまってやれ)
そんなことを考えていたとき、夜の静けさをついて空の一角から、ぶーンとにぶい唸《うなり》が聞えてきた。
春木は、はっと目をかがやかした。
「飛行機が飛んでいる。まさかこの間のヘリコプターではないだろうが……」耳をすましていると、どうもふつうの飛行機の音とはちがう。
「あッ、ヘリコプターだ。いけないぞ」
彼は、机上のスタンドのスイッチをひねって、室内をまっくらにした。そして手さぐりで、二つの宝の鍵を包んで、元のようにひきだしの奥へおしこんだ。
ヘリコプターの音は、だんだんこっちへ近づいてくるようだ。春木少年は、急に恐怖におそわれ、がたがたとふるえだした。
「分った。ぼくの黄金メダルを奪いにきたんだ。それにちがいない」春木少年は、そう思った。
たいへんである。彼は生駒の滝の前で、あの黄金メダルを死守《ししゅ》した戸倉老人が、賊のためどんなにひどい目にあったかを思いだした。それからとつぜん滝の前へおりてきたヘリコプターが、倒れている戸倉老人に対して猛烈な機関銃射撃をやったあげくに、老人を吊りあげて飛び去ったことを思いだした。これは牛丸君から聞いたことだが、おそらくほんとうであろう。
どこまでも手荒《てあら》い賊どものやり方だ。最新式の乗り物や殺人の器械を自由に使いこなして、必ず目的を達しないでは
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