ながそで》から愛用の毒棒《どくぼう》をつきだしている。
「うッ!」博士は青くなって、さっと両手をあげた。あの毒棒は、押|釦《ボタン》一つおすと、一回に十本の錐《きり》が、さきにおそろしい毒をつけたまま、相手の身体にぐさりとつき刺すのであった。その毒の調合をしたのは、机博士自身であったから、その猛毒については誰よりも博士が一番よく知っている。だから博士が青くなって両手をあげたわけだ。
「この間から、どうもお前の様子がへんだと思っていたが、この部屋でいったい何をしようと思っていたのだ」
頭目は落ちつき払った中に、憎《にく》しみのひびきのはっきり分る声で、博士をきめつけた。
博士は、口をかたくつぐんでいた。
「いうんだ。いわないと、こいつがとんでいく。お前がよく知っている恐ろしい毒矢《どくや》がくらいたいか、それともいってしまうか」
「黄金メダルの半分の写真でもお持ちなら、ちょっと見せていただきたいと思ったのです。それだけです」
博士は、ついに返事をした。
「それだけだって。ふふン」と頭目は皮肉《ひにく》に笑って、
「しからば、お前はチャンフーのところから、三日月形の半ぺらを持ってきたんだな。いや、ちがうとはいわせない。そうでなければ、おれが持っていた半ぺらの方を見たいなどという気を起すはずがない」
そうではないと、博士は一生けんめいに弁明した。だが、博士の弁明が真剣になればなるほど、頭目はそんなことが信じられるか、とはねつけた。そしてついに、
「そうだ。これからお前の部屋へいこう。この部屋でやったとおりのことを、おれはお前にやりかえしてやる。部屋のものをみんなひっくりかえして、総探《そうさが》しをやってやる」
「あッ、それは……頭目。許して下さい」
博士の態度が一変して、気が変になったように見えた。が、すぐ博士は元にかえって、そのような乱暴は思い止《とどま》ってくれと哀願《あいがん》した。
「ならん。お前の部屋へゆくんだ。先へ歩け。命令をきかねば、毒矢をぶっ放すぞ」
もう仕方がなかった。机博士は、しおしおと歩きだした。その背中に、頭目が毒矢銃をぴったりとおしつけた。
「自業自得《じごうじとく》だ。頭目をだしぬこうなんて、反逆行為だ。反逆行為の刑罰はどんなものだか、知っているだろう」
向うを向いて、重い足をひきずって進む机博士の顔には、ふしぎな笑《え》みが浮
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