んでいた。
(今にめにものを見せてくれる。その時になって腰をぬかすまいぞ。へん、おれの作った罠の中にわざわざおはいり下さるのだ。四馬剣尺の化《ば》けの皮を、今にひんむいてくれる)
博士のひそかなる気味のわるい笑いは、もちろん頭目には見えるはずもなかった。その頭目もまた、ひそかなる笑みを口のあたりに浮べていたのだ。
(見ろ。こんどというこんどは、陰謀屋《いんぼうや》の机博士に致命傷《ちめいしょう》をくらわせてやる。きさまは、自分のわる智恵の中に、自分でおぼれてしまうのだ。それにまだ気がつかないとは、きさまもあんがい頭がよくないて)
狐《きつね》と狼《おおかみ》の化かし合いだ。どっちが狐で、どっちが狼か。それはしばらく見ていなくては、きめかねる。
ついに机博士は、自分の部屋の扉を開いた。そのとき彼は、自分のうしろに異様《いよう》な気配を感じたので、はっとしてふりかえろうとした。
「ふりかえるな。向うを向いていろ」頭目が大声で叱りつけた。博士はぎくりとして、首を正面へ向けかえた。……が、今ふりむいたときにちらりと見たことだが、頭目のそばにもう一人背の高い人物がいたように思った。
「早くはいれ」机博士は背中をつかれた。
そこで室内へ足をいれた。室内は、暗室《あんしつ》になっていた。ただ桃色《ももいろ》のネオン灯《とう》が数箇、室内の要所にとぼっていて、ほのかに室内の什器や機械のありかを知らせていた。
「部屋を明るくするんだ。これじゃ暗すぎて、なんにも見えない」頭目がそういった。
(待っていました!)
と、博士は、心の中でおどりあがった。
「はい。今、明るくします。ちょっとお待ちなすって」
「へんなまねをすると許さんぞ。おれはお前のそばをはなれないから、そう思え」
頭目が部屋の中へ足を踏み入れた。
「大丈夫です。へんなまねなんかしません。そこに油だらけの機械がありますから、けつまずかないようにして下さい。今すぐスイッチをひねりますから、ちょっと――」
博士はぐんぐん奥へはいっていった。そして壁ぎわに置いてある四角い機械のうしろへまわった。博士の顔には、またもや気味のわるい微笑が浮かんだ。
(今だ。化けの皮をはいでやるときがきたぞ。覚悟《かくご》しろ)
博士はスイッチを入れた。それこそこの間中から博士が考案し、組立てていた大きなエックス線装置であった。これは広角
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