すこし当惑げな顔つきだった。
「うんじゃないよ、ペン公。俺たちの自由が束縛され個性が無視されているんだ。本来俺たち人間は、煙草もすいたいんだ。酒ものみたいんだ。それをあの閣下野郎がすわせない飲ませないんだ、これじゃ何処に生き甲斐があるというんだ」
「オイ頼むから、あまり大きな声を出さんでくれ。誰かに聞えるとよくないぜ」
「なアに、誰かに聞えれば、そいつも至極もっともだと思うにちがいない。もっともだと思わないやつは、あの39[#「39」は縦中横]番音楽にまだたぶらかされている可哀想なやつだよ」
「そういえば、ポール。お前にはミルキ閣下ご自慢の音楽浴もあまり効いていないらしいネ」
「うむ。もちろんそのとおりだよ」とポールは昂然と肩を張っていった。「これは大秘密だが、ちょっと俺の臀に触ってみろ」
ペンは言われるままに、好奇の眼を輝かして、ポールの臀をズボンの上から触ってみた。するとそこには、なんだか竹籠のようにガサガサしたものが手にふれた。
「やッ、これは何だ。何を入れているんだ」
「ふふふ、どうだ分ったか。これはナ、俺が一年間かかって繊維をかためて作った振動減衰器なんだ。知っているとおり
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