き、博士には完全人間ができて嬉しいなどと挨拶したが、あれはお世辞にすぎなかったのである。事実国民は、大統領の希望するほど二十四時間を完全に緊張しつづけ、また不平不満ぬきで生活しているわけではなかった。
3
十九時過ぎのことだった。
十九時といえば、古い時刻でいうならば午後七時に当るのだったが、この地底に埋もれている国には、明けることも暮れることもなく、いつも人工光線の下で生活していた。太陽はいつもものうき光線を彼らの国の屋根に相当する地表に投げかけているだけだった。地表には蝶一匹すら飛んでいなかった。たびたびの戦争に、地表面は細菌と毒ガスとに荒れはて生き物はおろか草一本生えていない荒涼たる風景を呈していた。生き残った人間と、わずかの家畜と寄生虫とだけが地底にもぐりこんで種を全うした。
今も言った十九時過ぎのことだった。アリシア区の男学員ペンとアリシロの靴男工ポールとが私室において壺の中の蜜をなめながら話に夢中になっていた。
「ええおい、まったくこれはばかばかしいことじゃないか」
とポールが大きなジェスチュアをしながらペンをそそのかすように言った。
「うん」ペンは
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