ことは差し控えるが、その条項中には、例えば一、大統領に対し忠誠なること、一、不撓不屈なること、一、酒類を欲せざること、一、喫煙せざること、一、四時間の睡眠にて健康を保ち得ること、一、髭を見たらば大統領たることを諒知すること、といったふうに大統領ミルキはなかなかやかましい条件を出してあるのであった。
博士コハクがこれを完成させたとき、大統領は有頂天になって悦んだものである。国一番の重罪人を試験台として試みたところ、たちまちミルキの希望どおりの模範人間に改造できたものだから、腰をぬかさんばかりに愕いたのも無理はない。そこで大統領はこの成功せる音楽浴をラジオをかけはなしにするように、二十四時のべつまくなしに国民に聞かせよと言ったけれど、それはコハク博士の反対によってとりやめとなった。なぜなら、この音楽浴は脳細胞を異常に刺戟するため、あまりかけていると脳細胞を破壊して人間は急死を招くからであった。だから現行法令のように、博士の意見どおり一日に三十分に限られることになった。しかし大統領は、何か折さえあれば、もっと長時間かけることにして、国民のたましいを完全に取りあげたいものだと思っていた。さっ
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