、あの音楽浴てえやつは耳から入るのはごく少くて、殆ど全部が廊下から螺旋椅子を伝わって身体の中に入りこむのだ。だからよ、この振動減衰器を臀に敷いてさえいれば、螺旋椅子から伝わってくる39[#「39」は縦中横]番音楽の振動を相当に喰い止めることができるんだ。だから俺は、あんな人喰い音楽なんかに酔っぱらいやしないんだ」
「ふーン、なるほど。しかしひどいことをする男だ。それが知れたらどうするんだ」
「知れたらペン公が喋ったと思うぜ。いいかい。さもなければ知れっこないんだ。俺はあの人喰い音楽にかかったようなふうにウーンウーンうなるのがとてもうまいのだ。脂汗だってタラタラ流れてくるよ。お前は知るまいが、座席の前面には隠しマイクロフォンがついているんだ。だからこっちのうなり声は、そのまま総理部の監視所へ伝送されるのだ。靴男工ポールのうなっているのは明らかに自記装置《オートグラフ》に出ている。うなるのを忘れていりゃ警報器《アラーム》が鳴りだすんだ。俺はそんなヘマなことはやらないや」
 ペンはますます呆れ顔だった。見る目嗅ぐ鼻を持ったミルキ閣下に一杯喰わせて得々としている男が、彼の親しい友人の中にいたの
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