に突進するか、それさえ今は二人にわかっていないようであった。ただ殉国者の意気に燃え、自らかけた号令に服して、ミルキ国最後の二人は鉄扉に向って敢然とぶつかっていった。
 その刹那、二人は黄色い火花に全身を包まれたと感じた。それが最後だった。二人は崖から飛んだように意識を失った――その瞬間にこの部屋は、百年もたった墓場のような静けさに還っていった。
 だがこのとき、誰かが耳を澄ましたなれば、轢々と地底深く何物かを引きずるような怪しき物音が聞えてくるのに気づいたろう。その怪音は、厚い壁をとおして、地底から盛りあがるようにだんだんと大きくなっていった。やがてカンカンと金属性の音がしたかと思うと、不思議にも今まで大厳石を据えつけてあるように見えた正面の黒い第十室の鉄扉が静かに内部に向って徐々に動きだしたのである。何者が扉を開いているのだろう。
 何者が扉の内側にいるんだろう。
 開かれた第十室の入口から悠然と姿を現わしたのは誰でもなく、それは死んだとばかり思われていた博士コハクその人だった。彼はまるで甲虫そっくりな奇異なる甲冑姿で現われた。その後にはアネットに似た人造人間が、無慮五百体もズラリと
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