れはまだ確かめたわけではありませんが、そういう気がするのです。わたしはいかなる犠牲を払っても、あの扉を開けてみせます」
「いかなる犠牲を払っても?」
 と戦隊長が眉をひそめて聞きかえした。そこで女大臣は、部屋の中央に突立ち、武者ぶるいをして、突然果敢なる命令を下した。
「爆撃戦隊はアリシア区に進撃して、即刻扉を破壊せよ。索敵戦隊は予備隊として待機を命ずる」
 二人の戦隊長はスクリーンの中で、息を引取る魚のような表情を固化した。ミルキ閣下はああとうめいて、長椅子の上に堂と身をなげかけた。
 アリシア区では、ペンもバラも昔の面影もどこへやら、みいらのように瘠せ衰えていた。
 男学員ペンは画板の上に、なにか訳のわからない機械図を引いていたが、その上には彼の脣から止めどもなく流れだす涎《よだれ》でもって、したたかに濡れていた。男性化してしまった女学員バラは、計算器をガヤガヤと動かしていたが、彼はいくら割っても割りきれない割り算を幾百億の下の桁までも割ろうと無謀な努力を続けていた。そして熱にうかされた人のようにときどきその部屋から突然恋女アネットの名を呼んでいた。
 暗い精神病院のようなそのアリ
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