国民の意気はどんなに沮喪することでしょう。閣下は国民に対して甘すぎます。彼等に睡る時間や喰べる時間や考えたり遊んだりする時間を与えるのは全く無駄なことです。そんなものは、彼等を倦怠に導き、そして堕落させる外に、何の効果もないのです。今の悪行為の流行も、その一つの証明です。だからわたしは、国を救うため、そして国民自身をも救うために、音楽浴を二十四時間にふやしたのです。それでもうまくききめが現われないようならわたしの理想とするのべつ幕なしの音楽浴を計画したいと思います。そうすれば国民全体を一人の人間に命令するように不揃いなしに右にでも左にでも向かせることが出来るのです」
「完全に自由を奪うのだね。それまでにしなくともいいだろうに」
「いえ、その方が国民にとっても、どのくらい幸福かしれやしません。国民が心配することは一つもなくなるからです」
「わしはいやだ」
「閣下は、政治家たる素質がおありにならないから、そうお思いになるのです。ではこうなさいませ。生れつきの政治家であるわたしに統治の全責任をお委せになったら。そして閣下は引退なさるのです。そうすればどんなにか気楽ですわ」
「莫迦を言え。それ
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