だコハク博士もそんなことを計画しなかった」
「博士コハクは生れつき狡いから、わざと音楽浴を一日一回に制限したのです。でもないと博士自身も二十四時間働きつづけにさせられますからネ。わたしはそれを前からちゃんと知っていたのです。政治家でなければ、いちいち国の能率を本当に十二分にあげることは不可能ですよ。科学は政治家に征服されてこそ、真の偉力を発揮するのです」
 このときミルキ閣下の耳底には、音楽浴の行進につれて国民の口からハッハッと吐きだされる苦悩の呻き声がアリアリと感ぜられた。

      10[#「10」は縦中横]

 ミルキ閣下は、昨日とは打ってかわった不機嫌なる体で、室内をゴトゴト歩きまわっていた。
 女大臣は電波化粧台の前にすわって、自分の分泌腺をしきりと刺戟しながら、執拗にもミルキ閣下に話しかけた。
「閣下はいまにわたしに感謝なさいますわよ。閣下はご存知ないのでしょうが、今なお国内にて音楽浴の効き目が薄れた倦怠時間になると、怪しき性の手術を施して、男性が女性になったり女性が男性になったり、それはそれは口にするのも唾棄すべき悪行為が流行しているのですよ。そんなことが流行しては、
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