はまずくて口に合わないといっているのです」
「え、人造人間の肉だって?」
 ミルキ閣下は愕いて椅子から飛び上った。アサリ女史の足許を見ると、大きな金盥《かなだらい》に、赤い肉片が山のように盛られていた。そして顔色を変えるミルキ閣下の目に、金盥のところから血の滴がポタポタと落ち、奥のカーテンの蔭にまでつづいているのが映った。
「うむ、貴様やったな」
 飛ぶようにして、カーテンのところへ駈けつけたミルキ閣下は、そのカーテンの向うにバラバラに解体された精巧な器械の固まりを見た。その器械の固まりの端には美しい女の顔がついていた。それはやや蒼ざめてはいたが、何にも知らぬげににっこりと微笑んでいた。それを見た瞬間、閣下は爆発する火山のように憤怒した。
「な、何故殺したのだ。なぜアネットを殺したのだ。貴様はアネットが美しいので嫉妬しているんだな。殺しちゃならぬとあのくらいわしが命令したのに、なぜそのとおり遵奉《じゅんぽう》しないんだ。女大臣だとて、こうなっては容赦せぬぞ」
 でもアサリ女史は、悠然と椅子に腰を下ろして、ガラスのなかの飲料をとっていた。
「まあおしずまりなさいまし。そうしたのもミルキ国
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