のためを思えばこそです。この非常時に、閣下が人造人間にうつつを抜かしていられるなんてことが住民に知れわたったら、彼らはどんなに騒ぐことでしょうか。今こそ、かねてわたしが申しておきましたとおり、非常政策を遂行するべきときなのです。賢明なる閣下に、それがおわかりにならぬはずはないと存じますが」
 閣下は、アサリ女史の言葉に反対はしなかった。だがそっぽを向いて独白した。
「――わしは檻のない監房に入っているのも同様だ。わしはもう永遠に美しい女性を手に入れることが出来ないんだ」
 アサリ女史は閣下の独白が聞えないような様子を装っていた。そして閣下をまた元のようにテーブルの前に坐らせると、醇々と国策問題を述べだしたのであった。
「さあ、ミルキ閣下。わが国は今日より非常推進を行うのです」
「非常推進か。それでどうしようというのかネ」
「ミルキ国の地下には、金鉱が無尽蔵に埋没されています。あれをこの際向う一週間で全部採掘するのです」
「誰が採掘するのか。僅か一週間で採掘するなんて、第一人手も足りなければ、機械だって揃わないぞ」
「そんなことは訳はありません。わたしに委せておきなさいませ」
「委せてお
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