れてバラはいささか得意だったけれど、アリシア区を案内することは彼女にとってむしろ迷惑なことだった。
 でも、命令は命令である。彼女はやむなく次の工作室から始めて、ミルキ閣下の一行を各室に導いていった。
 アリシア区は全体が同じ段階の上にあった。そして室の数は大小合わせて十六にのぼっていた。しかしこの十六の部屋をことごとく知りつくしているのは博士コハクだけであって、バラは九室を、ペンはわずかに六室を知っているだけだった。いったい同一区の住民は、区内の隅から隅まで知るのを法令により許されているはずだったけれど、博士コハクはその掟を破って、職責に比例して研究室の交通を制限していた。
 第六室までの案内は、至極無事に終った。変っているには相違ないが、そう愕くほどのものはなかった。そこでバラは一行の方を振りかえり、「第七室から、主として人造人間の秘密研究室になります。これから先は、すこし変っていますから、そのおつもりで……」
 と、注意をすることを忘れなかった。
 第七室に入ると、果然そこには大仕掛けな動力機械が林のように並んでいた。すべては人工宇宙線による原子力分解機関であって、二十四基に分れ
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