おののいた。博士コハクの非業の最期を、ただいまアサリ女史の言葉によって二人は始めて知ったのであるから。
博士がミルキ夫人と醜行があったなどということは信じられないことだった。博士は研究室に閉じこもって、二十四時間を殆ど仕事に費していた。醜行をするような余裕も気持も、博士にはなかったはずである。それにもかかわらず醜行があったとは、一体どんな醜行をやったのであろうか。しかも博士コハクはミルキ国第一の、いやミルキ国ピカ一の科学者だった。ミルキ国の至宝であったのだ。博士はミルキ閣下の命令により、あらゆる文化設備を設計し建設した。この博士に死刑を執行することは、ミルキ国が自殺をするに等しかった。これから博士に代って誰が仕事をしようというのだろうか。なんという無謀な死刑宣告だろう。博士の研究のうちでも、目下莫大なる国費を費して研究半ばにある人造人間の建造などは、これからどうなるのであろうか。二人の門下生は、急に目の前が陥没して、数千丈の谿谷ができたような気がした。
「さあそこで副主任バラ女史に命ずる。博士コハクに属していたアリシア区全体を閣下と共に検分する。すぐ案内にたつように」
副主任と呼ば
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