処にも博士の姿は見えなかった。
「君、実験室の戸棚の中や、机の下も調べたんだネ」
とペンがたずねた。
「もちろんよ。わたしにできることは皆したんだけれど、先生はどこにも見つからないのよ。誰も知らないっていうの」
「誰も知らない? 誰って、誰のことだい」
「ホホホホ、誰って、皆のことよ」
バラは何を思ったか、憂いの顔をといて、おもはゆげにほほえんだ。
間もなく戸外に、女大臣の到着したらしいざわめきが聞えてきた。
ペンとバラとは、戸口のほうに飛んでいった。
「あ、これは――」
「まあ、閣下が――」
女大臣の到着かと思ったのに、事実は女大臣は扈従《こじゅう》のかたちで、そこには思いがけなくもミルキ閣下が傲然と立っていた。
アサリ女史はペンとバラとを尻眼にかけて室内に闖入した。そして誰に言ってるのかわからないようなそっぽを向いて、
「アリシア区の博士コハクは、本日ミルキ夫人との醜事件によって死刑執行をうけた。よってアリシア[#底本では「アシリア」]区の主任は当分のうち本大臣アサリが兼任する。なお女学員バラに臨時副主任を命ずる。終り」
ペンとバラの二人は、電気にうたれたように、慄え
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