よくなったんだ。男性にもなれるんだ。ペン、わたしがもしも女性から男性に変ったとしたら、貴方はやっぱりわたしに対して、今までのように憧れるかしら」
 ペンは唖然として、バラの熱弁に叩かれていた。彼はこのときホッと溜息をついて、バラに向って慄える唇を開いた。
「ああ恐ろしいことだ。君が男性になるなんて。僕たちの関係も、これでもうおしまいだ。僕は生きていることのつらさが、これでまた一つ増えたことをしみじみ感じるよ」

      7

 女大臣アサリ女史からの急ぎの電話で、男学員ペンと女学員バラは急遽その部屋を立ちいでなければならなかった。それは女大臣がミルキ閣下とともに、五分後にアリシア区を訪問するという知らせを受けとったからだった。
 二人は急行コンベーヤー移動路を巧みに乗りかえて、やっと定刻までにアリシア区に帰ってきた。「博士コハクの姿が見えないが、どうされたんだろうネ」
「さあ、どうしたんでしょうね。もう時間が来ているのに、先生が見えないなんて変ね」
 二人は博士の不在にすぐ気がついたのだった。ミルキ閣下の叱責を恐れて、二人は手わけして方々に電話をかけたり、各室をさがしたりしたが、何
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