えた。一方の壁付にミルキ夫人が苦悶している。博士コハクは狂人のようにクルクル走りつづけている。
テレビ受影機をジッと覗きこんでいるのはミルキ閣下と女大臣アサリ女史だった。二人は彼の室内の模様がいかに移りかわってゆくかについて異常な興味をつないでいた。
ただ二人は、間もなく眼の危険を悟った。テレビ受影機のスクリーン一杯に、博士コハクの顔が写った。とうとう送影機のレンズを見つけられてしまったのだ。はたして次の瞬間博士が椅子を目よりも高く振りかぶると見る間に、スクリーンは鏡のようにひらめき、次いで映像がストンと消えてしまった。
二人はかわるがわる受影機の前に立って、目盛盤を廻してみたが、スクリーンの上にはふたたび何の影も現われなかった。室内の様子をうかがうテレビの器械は完全に破壊されてしまったのである。ミルキ閣下と針金毛のアサリ女史は目と目とを見合わせた。
「見えなくなった。どうしたらいいだろう」
「もう見えなくてもようございますよ。二人とも死んでしまうことは、もう明らかでございますからネ」
「きっと死ねるかネ、アサリ女史」
「問題はありませんわ」
そういっているとき、ミルキ夫人の室
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