って聞くのかい。もちろんさ。なぜそんなことを聞くんだい」
 ポールは無言でペン公の手を握って引き立てた。そして部屋の隅に立っている衝立の蔭に引張りこんだ。
 スルスルと衣服の摺れ合う音がした。衝立の上に、ポールの上衣がパサリとかかった。それからガチャリと皮革が垂れ下った。
 そのとき、中からペンの愕く声が聞えた。ポールの制する声を押し切ってペンは大声で叫んだ。
「――ああこのことだな。お前が自分で身体を解剖しているって噂のあったのは。なんだこれは大変な手術じゃないか。俺は急にお前が厭になった!」

      4

 約束のとおり、ちょうど二十時であった。
 アロアア区の戸口に佇む一個の人影があった。長身のすっきりした男性だった。
 表札には「ミルキ夫人」と記されてあった。
 扉が音もなくスーッと下にさがった。
 中には純白の緞子《どんす》張りの壁が見えた。その中から浮彫りのようにぬけいでた一個の麗人があった。頤から下を、同じく純白の絹でもって身体にピタリと合う服――というよりも手首足首にまで届くコンビネーションのような最新の衣裳を着、その上に幅広の、きわめて薄い柔軟ガラスで作ったピカ
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