ピカ光る透明なガウンを長く引きずるように着ていた。
「おお博士コハクでいらっしゃるわネ」
 銀の鈴を鳴らすような大統領夫人の声に、かの男はうやうやしくその前にひざまずいた。
「令夫人に忠誠を誓います」
 ミルキ夫人はホホと笑って、博士を奥の一室に導いた。そこは金と赤との格子模様でもって、天井といわず床といわず、眩しきまでに飾りつけのあるサロンだった。部屋の真中にはガラスで作った大テーブルがあって、その上には高級な玻璃の器が所狭くならんでいた。豪華な晩餐の用意ができていたのである。ミルキ夫人は博士を向い合った椅子に招じた。
 ガラスの大テーブルの真中には、やや高い棚のようなものがあった。夫人が釦を押すと、この棚の中では上下に往復運動するエレヴェター式の運搬器《コンヴェアー》が動きだした。テーブルの下から古い酒や結構な料理が静かに上ってきては、主人と博士の前に機械的にはこばれた。用のなくなった皿は自然にテーブルの下におりていって、見えなくなるのだった。夫人が一九三七年製の葡萄酒の盃をあげると、反対運動のように博士も盃をあげた。夫人が蜂の子をつまみあげて口にもってゆくと、博士もこれにならった
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