から轟然たる一大音響が聞えてきた。
「あッ」とミルキ閣下は耳に蓋をしながら、「あの物音は一体何が起ったんだろう」
「閣下、早く行って見ましょう。博士が逃げるために扉《ドア》を破ったのかも知れませんよ」
 だが扉《ドア》は、前のようにピタリと閉まっていた。二人は相談した結果、扉を開いてみることにした。そこに番をしていた電気士がすぐに送電したので、扉《ドア》は釦を押すと同時に、また前のようにスルスルと下に落ちた。
 二人は室内に躍りこんだ。大爆発が起ったものと見え、あの豪華な装飾も跡はなくなって、じつに目をそむけたいような荒れ方だった。二人は床の上に、バラバラになって飛び散っている男女の腕や脚を見た。それを拾おうとして女大臣が一歩室内に足を入れたとき、ちょうど待っていたかのように、ボーッという音もろとも、床上が一面の火焔でもって蔽われた。勇敢をもってなる女丈夫アサリ女史も、こうなってはもう策の施しようもなく、その場に立ちすくんだ。床上に残っていたバラバラの手足も、すっかり火焔のなかに隠れてしまった。
 ミルキ夫人と博士コハクとはかくしてアロアア区の煙と化したものと見られた。しかし爆発の種がどこにあったのかは分らなかった。しいて考えれば、博士コハクが持ちこんだとしか思われなかった。でも博士がなぜ爆薬を用意してきて、自ら爆死したのか、ミルキ閣下にはそのへんの事情がいっこう腑に落ちないのだった。

      6

 博士コハクの身の上にそんなことが起ったとは夢にも知らぬ男学員ペンと女学員バラとだった。
 二人はバラの私室で、しきりに悪どいふざけかたをしていた。しかしやがて二人の昂奮は大風に遭った霧のように跡形もなく消えてしまった。そして二人は別々にものうい倦怠の中に吐息している自分自身を見出した。
 二人は別々に、なにがこう面白くないんだろうと考えた。
「ちかごろ、君はどうも冷淡にすぎるね」
 とペンがバラに言った。
「だってそれはお互いさまだから、仕方がないわ」
 バラは枕許のさすり[#「さすり」に傍点]人形を撫でまわしながらいった。さすり[#「さすり」に傍点]人形は、摩擦によって触感を楽しむ流行の人形だった。喫煙の楽しみを法令で禁ぜられた国民が、これに代る楽しき習癖として近頃発見したものだった。
「君はこの頃、僕が嫌いになったんじゃないか」
「さあ、どうだか。――とにか
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