彼は落ち込む途中でいやというほど頭を打った。どこかで老人のあざけり笑うらしい声が聞えた。と、道夫は気が遠くなってしまった。
怪紳士
道夫は、ふっと悪夢から目ざめた。
いじ悪い数頭の犬にとりかこまれて、自分はあっちへ引張られ、こっちへおわれて、はてしない乱闘をつづけているうちに、ふとこの悪夢がさめたのだった。全身におぼえるけだるさ、そしてずきんずきんと頭のしんが痛む。
「おお、気がついたようだよ。道夫君、元気をだしたまえ。そしてまずこれをのむのだ。気持がよくなるよ」
しっかりした男の声だ。道夫は、まだ夢心地で声のする方へ、ものうい眼を向けた。
(川北先生かしらん)
と思ったが、道夫の日にうつった声の主《ぬし》の姿は、川北先生ではなかった。先生よりはだいぶん年上の人で、こい緑色の背広を着た面長《おもなが》の背の高い紳士だった。その紳士は、左手を道夫の背中に入れて長椅子から抱きおこし、そして右手にコップをもって道夫の口へ近づけた。
道夫はひじょうにのどがかわいていたので、いわれるままにそのコップから、中の液体をのんだ。甘ずっぱい、そしてさわやかな、刺戟《しげき》のあるすば
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