下りた。そのとき、庭から廻った一組は、松の木の下をもぐって往来へ向かっている気配であった。
 道夫は、一番後から窓を越して庭へ下りた。道夫の手には、携帯電灯が光っていた。それは研究室の雪子の机の上にあったもので、これ幸いと持ってでたのであった。
 往来へでてみると、人々はがやがやいいながら、だんだん戻ってきた。
「暗いものだからね、とうとう見失ってしまった」
「相手が幽霊じゃ、もともとぼんやりしか見えないものですからねえ」
「やっぱり幽霊ですかね。私は、足音を聞いたように思いますよ。幽霊に足音はおかしいですからねえ。かねて幽霊には足がないと聞いていますからねえ」
「いや、私は足音を聞かなかった。そして幽霊を今田さんの塀のところまで追いつめたんだが、とたんに私は足を滑《すべ》らせて、はっとしたんですがね、それでおしまいでした。もう幽霊の姿はどこにも見えなかった」
「この眼鏡は、どなたの眼鏡でしょうか」
 そういって、黒っぽい硝子の入った枠《わく》の重い眼鏡を一同の上に出してみせたのは道夫だった。彼はそれを松の木の下で拾ったのである。
 誰もその眼鏡を、自分のものだとこたえる者はなかった。
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