。
川北先生は、相手が一通りの手段ではいかないことを知ると、態度を改めて、
「ねえ君。雪子さんの行方が知れないで木見さんのお宅ではほんとうにお気の毒にも歎《なげ》き悲しんでいられるのです。前後の事情から考えると、君はそれについて何かを知っていられるように思う。どうかわれわれなり、木見さんの家の人を助けると思って、君が知っていることを話して下さらんか。どんなにか感謝しますがねえ」
川北先生の話をしている間に老浮浪者の面《おもて》には、何か感情が動いた瞬間があった。
「ねえ、分るでしょう。そうだ、これについて教えて下さい。さっきあの廊下を伝わって研究室の方へきた若い洋装の女の人は庭園の方へでてこなかったですか」
老浮浪者は、一つだけ頭を横に振った。見なかったという返事らしい。
「ああ、ありがとう。次に……そうだ、君は窓から、今の話の若い洋装の女が部屋にいたのを見ましたか」
老浮浪者は、かるく一つうなずいた。――道夫は老浮浪者が返事をしていると知って、新しい希望に心を躍《おど》らせた。
「ありがとう。もう一つ――研究室から研究ノート第九冊が見えなくなったが、誰が持っていったんだか、君
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