してまことに情なく思う次第です」
雪子の父親の木見武平《きみたけへい》は、そういっそ川北先生と道夫の訪問に礼をのべたが、しかし、禍《わざわい》が先生と道夫の上に降りかかるようなことがあっては心苦しいからと武平は灰色の頭をふって、辞退の意をもらした。
しかし川北先生は、それは心配無用と答え、とにかく当局とは違った考えがでるかもしれないから、ぜひお嬢さんの研究室を見せてくれるようにたのんだ。
これには武平も応じないわけにはいかなかった。それで二人をそちらへ連れていった。暗い長廊下を通って、別棟《べつむね》になっている研究室の扉までくると、武平は懐中から鍵をだしてそれを開いた。ぷーんと、薬品の匂いが、入口に立つ三人の鼻を打った。
「暗いですね、電灯をつけましょう。はてどこにあったかな、スイッチは……」
「小父《おじ》さん、ここにありますよ」
道夫は、この研究室へよくきたことがあるので、案内には明るかった。彼は入口の戸棚の裏になっている壁スイッチをぴちんと上げた。と、室内は夜が明けたように明るくなった。
「ほう、これは……」
川北先生が、思わず歓声《かんせい》を発した。先生はこの研究
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