んだばかりで、釘づけになってしまった。それは、彼が今とがめた相手の婦人の姿が、まるで影のようにもうろうとしているばかりか、その顔がぞうっとするほどの苦悶《くもん》にみちていたからである。店主はそのけわしい幽霊の顔に見すえられて、息の根がとまるほどにおどろいた。
がらがらがらと音をたてて薬の壜《びん》が棚から落ちはじめたので、店主はようやくわれにかえり大声で救いをもとめた。それから大さわぎになった。店の中も店頭もめちゃめちゃになって、警官隊のかけつけたときには、足のふみ入れようもなかった。もっとも店頭がそんなにめちゃめちゃに壊されたのは、女幽霊が手を下したのではなく、このさわぎに乗じて、たちのよくない群衆がなだれこみ勝手なふるまいをした結果であった。
捜査課員の出張があって、この事件が、女幽霊の仕業《しわざ》だと分ったときには、さらに大きなさわぎとなった。
こんな事件が、つぎつぎと発生した。
恐怖と戦慄が、都下全体へひろがった。
女幽霊が、いつ侵入してくるかもしれない! 女幽霊はどんな厳重な戸締《とじまり》でも平気で入ってくる! 女幽霊をいくら追いかけても追いつけるものではない
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