て煙突からでていったとしか思われませんね」
 道夫は、ついにわけがわからなくなって、そんな無茶なことをいってみるしかなかった。
「さあ、煙突のことは、まだ聞かなかったけれどね、まさかあの煙突からはね……」
 茶の間から植込と塀越しに、お隣の古風な煉瓦《れんが》造りの赤いがっちりした煙突が見える。しかしあの煙突から雪子姉さんがでられるとは思われなかった。冬、石炭をもやすと煙が二条になってでてくるところから考えて、あの煙突の上は、あまり太くない土管が二つ平行に煙の道をあけているのに違いない。そうだとすれば、その土管は鼠《ねずみ》か猫ならばともかく、人間が通り抜けることはできないであろうに。考えれば考えるほど、ふしぎな雪子学士の行方不明だった。

   事件は迷宮入《めいきゅうい》り

 道夫にとっては、雪子学士が行方不明になったことは、この上もなく悲しく心配であった。
 どうかして雪子姉さんが早く帰ってきてくれればいい。もしすぐ帰れないのだとしても、どうか生命《いのち》は無事で生きていてくれるといいといのらずにはいられなかった。
 だがよく考えてみると、雪子姉さんの運命については、よくないことばかりしか耳にしない。
 あの日、警視庁などの人がきて、木見さんの屋敷を全部のこるくまなく調べていったそうであるが、その結果として、雪子姉さんの両親へ、係官が話していってくれたところによると、この事件は、よほどの難事件であるということである。もちろん今のところ、この事件の解決について何の手がかりも見つからないのだそうである。
 係官の説に三つあった。
 一つは、雪子学士が非常にたくみな方法によって、この家からでていったとするものである。たとえば、何かのからくりを使って、部屋の外側より、部屋の内側の扉にさしこんである鍵をまわして扉に錠を下ろし、それからそのからくりを手もとへ取りもどして、家出をしたというようなやり方である。或いは、窓に工夫があるのかも知れない。または本棚のうしろや、機械台の下に、ぽっかりあく秘密の出入口があるのかもしれないともいわれた。
 第二は、偶然、その扉の錠が下りたのだという説である。
 第三は、雪子学士は家出をしたのではなく、その研究室又は邸内のどこかにいるのではないかというのである。それは、雪子学士が自分の考えによって、わざとかくれているのかもしれないし、或
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