。係官は相当の捜査をした上で、どうも分らないと事件をなげだしたわけだろうが、まあ私の感じでは、この事件はかなりの難事件だと思うね。よほどの名探偵が登場して、徹底的に事件を調べないかぎり、事件の謎はとけないだろうという気がする」
 そういって先生は、深い溜息《ためいき》をついた。
「そうですか。そういう名探偵がいるでしょうか。うまくたのめましょうか。そして雪子姉さん――いや木見学士をうまく取りもどして下さるでしょうか」
「さあ、そのことだがね。……心当りの人がひとりないでもないのだが、あいにく不在なんだ。よく旅行にでかける人でね」
「じゃあ今お頼みできないわけですね。困ったなあ」
「まあ三田君。そう悲観しないでもいいよ」
 先生はなぐさめ顔にいった。
「ですが先生、僕のような力のない者がひとりで事件の解決に当って見ても、とても駄目だと分ったんですからね」
「ああ、それはそうだが……」
 川北先生はすこしためらって見えたが、やがて道夫の肩に手をおいて、
「よし、三田君、じゃあ私ができるだけ君に力をかそうじゃないか。もちろん二人だけの力ではだめだと思うが、君ひとりよりもましだし、それに私は君の話によって、ある特別の興味もおこったので、私の方からむしろ君の仕事に参加させてもらおうや。そのうちに私の心当りの人が帰ってくるだろうと思うんだ」
「先生、どうも有難う。僕は千人力をえた気持です」
「そうでもないが……」
「で、その心当りの人というのは、誰方《どなた》なんですか」
「それはね、私の同郷の先輩でね、蜂矢《はちや》十六という人なんだ」
「蜂矢十六? ああ、するとあの有名な大探偵蜂矢十六氏のことですね。空魔事件、宝石環事件、百万円金塊事件などを迷宮の中から解決したあの大探偵のことですね」
 道夫はその有名な大探偵のことを、人から聞いたり新聞で読んだりしてよく知っていた。あの大探偵に川北先生がよく頼んで下さるなら、これこそほんとうに万人力だと思った。ただ、その蜂矢大探偵が、今旅行で留守だとは、くれぐれも残念だった。

   生きている幽霊《ゆうれい》

 次の日の午後、道夫は川北先生を、木見家の両親に紹介することに成功した。
「そのように御親切にいって下さるのはたいへん有難いです。厚くお礼を申します。なにしろ娘の失踪事件の捜査は、当局でも事実上すっかり打切った形ですからね。親と
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