つ高次の四次元世界を考えることができないわけなのね。どこまでかけだしていっても、要するに横と縦の高さの三つでできている世界であって、その上にもう一つの軸を考えることができないんですものね。別のことばでいうと、三次元世界の者は、三次元世界からぬけだすことができないために、もう一つの元がどんなものであるか、それを感ずることができない」
「もういいよ、その話は……」
「しかし、一次元世界があり、二次元世界があり、三次元世界があるものなら、四次元世界があってもいいし、さらに五次元、六次元もあっていい。つまり算数の理からいえば、そういえるわけね」
「算数は、考えるだけのことでしょう。それより、ほんとうにその四次元世界というのがあるのかどうか、それを知りたいなあ」
「それはあるのよ。ちゃんとあるのよ、四次元世界というものがね。それについてあたしは、ぜひ幽霊のお話をしなければならないの。あの幽霊というものは、四次元世界の者が、三次元世界に重なって、そしてできるところの『切口』であるという結論をお話しなければならないの。その方が、早わかりがしますからね」
「むずかしいお話はごめんだ。ぼくは雪子姉さんのように勉強もしていないし、あたまもよくないんだからね」
道夫が悲鳴をあげた。
「まず、幽霊を科学的に証明しておかないと、あたしが今どんな危険なところに立っているか、それが道夫さんにわかってもらえないと思うわ。道夫さん、実はあたしは、その幽霊なのよ。今あたしは、四次元世界を漂流している身なのよ。助けて下さい。ぜび力を貸してあたしを助けだして下さい。一生のお願いですから……」
と、雪子は姿もおぼろとなり、悲痛な声をはなって泣いて訴《うった》えるのだった。ああなぜ雪子学士は、四次元世界などに踏みこんで漂流するような身の上になったのか。
幽霊の科学
しずまりかえった真夜中のことだった。
光もおぼろの下弦《かげん》の月が、中天にしずかにねむっていて風も死んでいた。
ぼろぼろの服に身体を包んだ雪子学士のあやしい影が、机のむこうから、悲痛な顔つきでもって、一所けんめいに道夫少年をかきくどいているのだ。
「幽霊を見るのは気のまよいだといわれているでしょう。この世の中に幽霊なんてありはしないといわれているわねえ。でも、幽霊というものは、ないわけではないのよ。道夫さんは今あたしをたしか
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