声を録音して、実況中継放送をしますなどといいだすものだから、女幽霊の妙な人気は日毎《ひごと》に高くなる。それとともに捜査課はますますごうごうたる非難をあびることになり、田山課長以下の立場は今や極度に悪化した。
 ちょうどその頃、女幽霊は何と思ったものか、突然或る夜更《よふけ》、道夫の枕許《まくらもと》へあらわれた。
 当時道夫は、あれからずっと意識がもとへもどらない川北先生のつきそいをして、警察病院に足どめされていた。いわゆる軟禁というあれだ。道夫には、自分の両親との通信も許されていなかった。これは、川北先生を一日も早く正気にもどるように、道夫に努力をさせるためであった。川北先生がよくなれば、道夫はこの病院から解放されて家へ帰れる約束になっていた。
 道夫は、寝台の中によく睡《ねむ》っていたが、突然胸苦しさを感じて目がさめた。すると枕許に誰か立っているのだった。
「道夫さん。起きて下さい。ぜひあなたの力を借りたいのよ」
 道夫は、そんな風に話しかけられたように思った。そこで彼はがばとはね起きた。
「道夫さん。あたしといっしょにいっていただきたいところがあるの」
 もうろうたる雪子学士は、そういって青白い手を道夫の方へのばした。

   再会

 なつかしい雪子姉さん――木見雪子学士の声だと気がついた道夫は寝台からむくむくと起上った。
 すると道夫の眼に、雪子の姿がうつった。それははっきりした姿であった。雪子はやつれた顔を道夫に向けて、にんまり笑いかけた。
「雪子姉さん。どうしてここへこられたの。いつ帰ってきたの」
 道夫はそういって、寝台からすべり下りると、雪子の方へかけよった。
「道夫さん、しばらくあたしにさわらないで……」
 と、雪子はいって、横にとびのいた。
「え、どうして、なぜさわっちゃいけないの」
 道夫は不満であった。
「そのことは、今に分るわ。とにかく気をおちつけて、あたしのいうことを聞き分けて下さいね。一生のお願いよ」
 雪子の眼は大きく開かれ、悲しみの色をうかべて道夫を見つめた。
「あたしのことでみなさんがさわいでいるのでしょう」
「ええ、そうですよ。雪子姉さんの幽霊がでるといっています。ほんとうに雪子姉さんは幽霊なんですか。それとも生きているんですか」
「道夫さんはどっちと思いますか」
「ぼくは……ぼくは、雪子姉さんは幽霊じゃない。ちゃんと生きて
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