るのだと気がつくと、妾はハッと正気に返った。そしてそこで妾は吾が子のまだ知らぬ父親のことが急に知りたくなって、自らを制することができなくなった!
「妾の腹の子の父親のことを教えて下さいな。どうぞ後生《ごしょう》ですから……」
と叫んだ。
「ではそれを教えてあげようが、これから大学まで歩いてゆく道々話すことにしよう」
最早《もはや》妾たちは折角の料理に箸《はし》をつける気もなくなって、そのまま外に出た。池《いけ》の端《はた》を本郷《ほんごう》に抜ける静かなゆるい坂道を貞雄に助けられながらゆっくりゆっくり歩を搬《はこ》んでゆく――が、妾の胸の中は感情が戦場のように激しく渦を巻いていた。
「君の胎《はら》の子の父親はねエ」
と貞雄は耳許で囁いた。
「――駭いてはいけない、この僕なんだよ」
「まア、貴方ですって、――」
妾はそれを聞くとカッとして、思わず貞雄をドンと突き飛ばした。
「ああ悪魔! 恐ろしい悪魔!」
と妾は喚《わめ》きつづけた。
「貴方と妾とは血肉を分けた兄妹じゃありませんか。それだのにこんな罪な子供を姙《はら》ませるなんて……ペッペッ」
と、妾は烈しく地面に唾を吐いた
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