なると》の渦の中へ飛びこんでしまったよ」
「まあ、誰か飛びこむところを見たんですの」
「見たというわけじゃないが、岩頭に草履《ぞうり》やいつも生命よりも大事にしていた頭飾りのものなどを並べてあったのを見つけたんだ。それから小屋の中からは、皆に当てた遺書が出て来たが、世を果敢《はかな》んで死ぬると、美しい文字で連《つら》ねてあった。あの子は仲間の噂じゃ、女学校に上っていたことがあるらしいネ」
「死骸は上ってきたんでしょうか」
「さあ、どうかネ。――なにしろあっし達は旅鴉《たびがらす》のことであり、そうそう同じ土地にいつまでゴロゴロして、出奔《しゅっぽん》した奴のことを考えている遑《いとま》がないのでネ。それと鳴門の渦に飛びこめば、まあ死骸の出ることなんざ無いと思った方がいいくらいだよ」
この話では、蛇つかいのお八重はインテリ女らしい。すると、やはりあの静枝はこの蛇つかいのお八重なのであろうか。そこで妾は彼女の素性《すじょう》を訊ねたが、あの娘は二年ほど前に突然一座に転げこんで来たので、前身は知らないと老人は答えた。またそのお八重が申年《さるどし》かどうかも知らなかった。
妾は、果して
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