と自分でも思っているがキヨはそれよりももっとよく似ているという。未知の同胞《はらから》を探していると公表したけれど、こう後から後へと妾によく似た人物が出て来たのでは、気味がわるくて仕方がない。
妾は、その怪紳士が寄るかもしれないと云い残して置いた九月を迎えるのが、急に恐ろしく感ぜられてきた。
7
八月も末になって、暑さが大分|和《やわ》らいで来た。
或る日妾は、なんとなく家にいるのが堪えられなくなってブラリと邸を出た。久し振りの散歩につい興に乗って、思わずも歩を搬びすぎ、いつの間にか隣村の鎮守《ちんじゅ》の杜《もり》の傍に出た。そしてそのとき杜蔭に思いがけなくも、曲馬団の小屋が掛っているのを見て、たいへん奇異の感にうたれたが、近づいてみると、古ぼけた蝦茶色《えびちゃいろ》の緞帳《どんちょう》に金文字で「銀平曲馬団」と銘がうってあったのには、夢かとばかりに驚いた。銀平曲馬団といえば、これは亡き真一が一座していたという曲馬団と同じ名であった。
そこで妾は、小屋の前へ廻って中を覗いてみたが、生憎《あいにく》一座は休演していることが分った。横手の草地の上には顔色のよく
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