亡診断書に認《したた》めてくれた。
「ああ助かった――」
 と妾はそこで始めて胸を撫で下したのであった。
 それが済むと、金田医師は手馴れた調子で屍体をアルコールで拭ったり脱脂綿を詰めたりして一と通りの処置をした。速水女史もクルクル立ち廻ってその辺を片づけてくれた。そして枕許にあった冷水の壜《びん》などは、わざわざ持っていって下水に流し、中を綺麗に洗ってもって来るなどと、実にまめに立ち働いた。妾はそれ等をただ呆然と見つめているばかりだった。
 丁度そこへ、静枝が外から帰ってきた。彼女は玄関を上ると、今まで速水女史の家で、女史が再び帰ってくるかと待ち合わせていたものの、待ち倦《あぐ》んで引返してきたのだと声高に述べたてていたが、真一の突然の死をお手伝いさんから聞くと、驚いて離座敷に駈けつけてきた。その顔は真青だった。


     6


 妾の気がすこし落着いたのは、それから十日ほど経ったのちのことだった。
 真一の屍体は納棺して密かに火葬場へ送って焼いた。その遺骨はお寺へ預けてしまった。ささやかなる初七日の法要もすんで、やっと妾は以前の気持を取りかえしたのだった。
 あれほど気にかか
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