うした仁《じん》でございましょう」速水女史は商売柄だけあって、目のつくのも速かった。その不審をうたれた男というのは安宅真一のことだった。彼は妾と始めて話をしたあの日、話|半《なかば》に急病を起して座敷に倒れてしまった。妾は驚いて早速医者を呼んでみたところ、だいぶん衰弱しているから動かしてはいけないという診断であった。妾は迷惑なことだったけれど、そうかといって真一を戸外につきだしたため、門前で斃《たお》れてしまわれるようなことがあっては困るから、仕方なしに邸のうちに留めおいて、療養をさせることにした。それからこっち一週間あまり経ち、真一はずっと元気づいた。妾の見立てでは、この「海盤車娘《ひとでむすめ》」はどっちかというと空腹で参っていたといった方が当っていたように思う。この邸でも、男ぎれというものが全くないので、妾も不用心だと思っていたところであるし、かたがた真一を邸内にそのままブラブラさせて置いたのが、逸早《いちはや》く速水女史の眼に止ったというわけである。妾はそのいきさつを手短に女史に語って聞かせた。
「まあそうなんでございますか」
 と女史はいったがそこで一段と眉を顰《しか》めて、
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