いのよ。ネ、わかるでしょう」
 畳に身を伏せて、嗚咽《おえつ》していた真一は、このとき俄かに身体をブルブルと震わせ始めた。それは持病の発作が急に起ってきたものらしかった。彼は苦しげに胸元を掻きむしり、畳の上を転々として転がった。あまりに着物を引張るので、その垢じみた単衣はべりべり裂け始め、その下から爬虫類《はちゅうるい》のようにねっとりした光沢《こうたく》のある真白な膚《はだ》が剥《む》きだしになってきた。そして妾は、はからずもそこに遂に見るべからざるものを見てしまった。真一の背にある恐ろしき瘢痕《きず》!
「おおいやだ――」
 彼の話に勝《まさ》って、それはなんという気味の悪い瘢痕だったろう。それは確かに生きている動物のように蠢《うご》めいた。或いは事実そこに腕のような活溌なものが生えていたのかもしれない。そのとき不図《ふと》妾は、いままでに考えていなかったような恐ろしいことを考え出した。それは真一の瘢痕のあるところに、もう一つ別の人間の身体が癒着《ゆちゃく》していたのではなかろうか。いわゆるシャム兄弟と呼ばれるところの、二人の人間の一部が癒着し合って離れることができないという一種の
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