ういうわけなの」
 安宅青年はそこで物悲しげに眉を顰《しか》めてから、
「実は僕は親なし子なんです。兄弟があるかどうかも分っていません。どうにかして小さいときのことを知りたいと思って気をつけていたところへ、あの新聞広告が眼についたのです。世の中には似たような人もあるものだナと思いました。とにかく伺ってみればもしや自分の幼いときのことが分る手懸りがありはしないかと思って、それでやって来たというわけです。僕は小さいときのことをすこしも憶えていません。記憶に残っている一番古いことは、たしか八九歳の頃です。そのころ僕は、お恥しいことですけれど、見世物に出ていました。鎮守さまのお祭のときなどには、古幟《ふるのぼり》をついだ天幕張りの小屋をかけ、貴重なる学術参考『世界に唯一人の海盤車娘《ひとでむすめ》の曲芸』というのを演じていました」
 そういって語る安宅の顔付には、その年頃の溌刺《はつらつ》たる青年とは思えず、どこか海底の小暗《こぐら》い軟泥《なんでい》に棲《す》んでいる棘皮《きょくひ》動物の精が不思議な身《み》の上咄《うえばなし》を訴えているという風に思われた。真一は言葉を続けて、
「僕を持っ
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