う興奮しちゃいけない。――その犯人というのは、やはり速水女史だった。静枝さんは無関係だ」
「ああ、速水さんが真ちゃんを殺したの」
「そうなのだ。僕は或る交換条件を提出し、その代償として聞いたんだ。で、その条件というのは、君が腹に持っている胎児を流産させることなのだ。イヤ驚いてはいけない。一体、速水女史は事実君の妹でもなんでもない蛇使いのお八重という女を籠絡《ろうらく》して、静枝と名乗らせ、この家へ乗り込ませた。それはお八重がたまたま君によく似ていたので使ったまでで、そうすることによって君の財産をお八重に継がせ、そこで速水女史は軍師の恩をふきかけて結局莫大な財産を自由にしようという企《たくら》みをしたのだ。その計画はたいへん巧く行った。これなら大丈夫と思っていたところ、意外にも意外、君が姙娠してしまったので、速水は大狼狽《だいろうばい》を始めたのだ。なぜなら、君に子供が生れりゃ、一切の財産はその子供が継ぐに決っているからネ。そこでこれはたまらないと悄気《しょげ》ているところへ、僕が悪党らしく流産手術を持ちだしたものだからすっかり安心して、真一君を亜砒酸《あひさん》で殺したことを自白に及んだというわけさ。もちろん想像していたとおり、この家に潜伏していた女史は、酔っている真一が水を呑むのを見越して、水瓶の中にその毒薬を入れて置いたのだ。女史が事件後、真先《まっさき》にその水を明けに行ったのも肯《うなず》かれるネ」
妾はただ呆れて聞いているより外《ほか》なかった。
「ところで真一君だが、あれは紛れもなく君の同胞《はらから》だ。『三人の双生児』の説明は、後で詳しく云うけれど、とにかく亡くなった君たちの母親は、真一と君とを生んだのに違いない。これは徳島に隠棲《いんせい》しているその時の産婆の平井お梅というのを探しだして聞きだしたのだ。書いて貰ってきたものもあるから、後でゆっくり見るがいい。ただし、君と真一とは、あのよく似ていて瓜二つという一卵性双生児ではなくて、すこし顔の違ってくる二卵性双生児であったことは、君にもよく分るだろう。しかしまだその上に、恐ろしい因縁話があるのだ」
と云って貞雄は茶碗からゴクリと番茶を飲んだ。
「君と真一君が、双生児にしては余り似ていないことを不思議に思うだろうが、そこに重大な謎が横たわっているのだ。このところをよく分って貰いたいが、実は君たちは
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