え二卵性の双生児としても、それはあまりにも似合わしからぬところであった。すると真一は境遇の上では妾の同胞に相当していながら、身体の上の印からはどうしても他人|染《じ》みていた。この不可解な問題は父が書きのこした「呪ワレテアレ、三人ノ双生児!」の謎をときさえすればすべてが氷解することと思う。どうしても妾は、静枝の云うように、彼女と産褥《さんじょく》にある母とを加えて、父が三人の双生児と洒落《しゃれ》らしいことを云ったなどとは考えない。
話によると、体の一部が接《つな》がった双生児を、そこのところから切り離して、全く独り立ちの二人の人間にした手術の話もあることだから、これはひょっとすると、妾の身体の一部に、そんな恐ろしい切開の痕があるのではないかと、今までに考えてみたこともないような恐ろしい疑惑が浮び上って、それは嵐の前の旋風に乗った黒雲のように拡がってゆき、遂に妾は居ても立ってもいられない焦躁の念に包まれてしまった。誰がそんな恐ろしい疑惑をもって、自分の裸身の隅から隅まで検べてみた者があろうか。第一、自分ではどうしても十分に観察の出来ない身体の一部が有るではないかと思うと、妾の心臓は俄かに激しい動悸《どうき》に襲われたのであった。
8
そのような悩みに、独り苦悶《くもん》しているその最中に、妾はまた一つの大きな愕きを迎えなければならなかった。
「ああ、奥様。お客さまでございますが……」
とキヨが顔色を変えて妾の居間に駆けつけた。
「まアどうしたのよオ。お客さまって、誰れ?」
「それが奥さま、いつか夜分にいらっして、名前も云わずにお帰りになった若い紳士の方でございますよ。忘れもしません、あれは真さまがお亡くなりになった晩でございましたわ」
「えッ、あの晩の人が!」
妾はハッと駭《おどろ》いた。妾によく似ているという紳士のことなのだ。あんなことを云い置いていったが、二度と来るものかと思っていた。妾は未だにその紳士が、真一を殺害したのではないかとさえ思っている位だ。その怪しい紳士が、チャンと予告どおりに訪ねてきたというのだ。悪人であろうか。善人であろうか。ちかごろ驚きやすくなった妾は、もうワクワクとして何の考えも纏らなかった。
「お会いするわ。また帰ってしまわれると気味が悪いから、早く客間の方へ上げてよ」
妾に似ているというところを、僅かに安心の
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