へんぺい》な壁のように感じられた。空は湖のようだ。ぐうーと水平線があがって、上から巨大なる島が下りてきた――と思ったら、それは島ではなく、わが地球であったのだ。芝居の背景が、ぐるぐるまわっているような感じでもあった。僕は、ひたすら錯覚《さっかく》の世界を追っていたのだ。
はげしい横転の始まった瞬間には、僕の身体は、機外においてけぼりにされたように感じた。水平線が、きらきらと、交錯《こうさく》した水車の車軸のようにみえる。奇妙なことだ。
一等気持のわるかったのは、上昇反転であった。機はぐんぐん垂直に上昇していって、その頂上で、エンジンははたと停り、そして失速する。からだが、空中にぴたりと停った。まるで空中に腰掛があって、その上に、ふわりと胡坐《あぐら》をかいたようなふしぎな気持だ。そこまではいいが、とたんに、下腹を座席へ固くしめつけている筈《はず》の生命の帯皮《おびかわ》が俄《にわか》かに緩《ゆる》み、からだが逆さになって、その緩んだ帯皮から、だらりとぶらさがる。機を放れて、単身《たんしん》墜落の感じだ。はっと目を前方に向け、そこにあるべきはずの地平線を探るんだが、地平線は無く、顔の
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