まん前にあったのは、何ともいえない気味の悪い青黒い壁のような大地であった。いつの間にか機首を下にした機は、次の瞬間、どどどっと奈落《ならく》に顛落《てんらく》する……。
特殊飛行中、僕は特に頭を下げて、自分のからだに、今如何なる苦痛が懸っているかを特に注意してみた。急上昇のときだと思うが、胸と太ももとが、目に見えない魔物のために、今にも押《お》し潰《つぶ》されそうに痛むのを発見して、ああこれこそ我慢づよいわが空の勇士が、絶えず相手に闘っているところの見えざる敵“慣性《かんせい》”だなと悟った。
機が地上に下りると、僕は急に胸先がわるくなって、むかむかしてきた。生唾《なまつば》が、だらだらと出てきた。全身には、びっしょり汗をかいていた。だが僕は、大声で叫びたいほど愉快であった。
僕は、機上から下りて、校長閣下を始め御歴々《おれきれき》に対し、初めて挙手の礼をもって挨拶《あいさつ》をした。鼻汁がたれているのはわかっていたが、これを拭《ぬぐ》うすべをしらないほど平常の身嗜《みだしな》みに無関心だった。
西原少佐殿は、さっきとは打ってかわり、それからいくどもくりかえし、
「海野さん、ま
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