は立たず、紙くずはなく、路面《ろめん》ははだしで歩いても足の裏がよごれないように見えた。
 町は、天井《てんじょう》が高く、路面から三十メートルはあったろう。そして、その天井は青く澄んで、明るかった。まるで本ものの秋晴れの空が頭上にあるように思われた。
「あの天井には、太陽光線と同じ光を出す放電管《ほうでんかん》がとりつけてあるのです。その下に紺青色《こんじょういろ》の硝子《ガラス》板がはってあります。ですから、ここを歩いていると昔の銀ブラのときと同じ気分がするでしょう」
「ああ、あれはほんとうの空じゃなかったのですか――うん、そうだ。地面の中にもぐっていて、青空が見えるはずがない」
 正吉は、うっかり思いまちがいしていたことに気がついて、顔があかくなった。しかし、それほどほんものの秋空に見えるのだった。
 区長は、正吉を、りっぱな本屋につれこんだ。奥は住宅になっていた。いわゆるアパートメント式の住宅であった。そのうちの一軒の前に立った区長は、扉をこつこつと叩《たた》いた。すると中から返事があった。女の声だった。
「あっ、あの声は……」
 扉が内にひらいた。家の中から顔を出した白髪頭《
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