くのお母さんは五十歳でした。ああ、それから三十年たってしまったのです。するとお母さんは今年八十歳になったはず。お母さんは日頃から弱かったんです。お母さんは、とても、今まで長生きしているはずはない。ぼく……ぼく……もうお母さんに会えないだろうな」
正吉少年のこのなげきは、たいへん気の毒であった。カニザワ氏とサクラ女史とカンノ博士の三人は、ひたいをあつめて何か相談していたが、やがてカニザワ区長が正吉にいった。
「もしもし、正吉君。われわれに、すこし心あたりがあるんです。うまくいくと、君のお母さんに会えるかもしれませんよ」
「えっ、ほんとですか。しかし母は、もう死んでいますよ」
「いや、そのことはやがて分りましょう。これから町を見物しながら、そちらへご案内してみましょう」
人工心臓《じんこうしんぞう》
正吉は、区長たちからなぐさめられて、すこし元気をとりもどした。
町を案内してもらったが、なるほどじつににぎやかであり、また清潔《せいけつ》であった。昔は、にぎやかな町ほど、砂ほこりが立ち、紙くずがとびまわり、路上にはきたないものがおちていたものだ。
しかし、この町はほこり
前へ
次へ
全32ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング