と回転している、目をうばうほどの美しい塔だった。
「それから湿度《しつど》は四十パーセント程度に保たれています。ですから、これまでの地下のようなじめじめした感じや、むしあつくて苦しいなどということもありません。また温度はいつも摂氏《せっし》二十度になっていますから、暑からず寒からずです。年がら年中そうなんですから、服も地下生活をしているかぎり、年がら年中同じ服でいいわけです」
「それはいいですね。衣料費《いりょうひ》がかからなくていいですね。昔は夏服、合服《あいふく》、冬服なんどと、いく組も持っていなければならなかったですからね。ちょうど布ぎれのないときでしたからぼくのお母さんは、それを揃えるのにずいぶん苦労しましたよ。――ああ、そういえば、ぼくのお母さんは……」
と、正吉は声をくもらせて、はなをすすった。
「どうしました、正吉さん」
と、大学病院長のサクラ女史が、うしろからやさしく正吉の顔をのぞきこんだ。
「ぼく……ぼく」
と正吉はいいよどんでいたが、やがて思い切っていった。
「ぼく、急にぼくのお母さんに会いたくなりました。ぼくがあの冷凍球《れいとうきゅう》の中にはいるとき、ぼ
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