しらがあたま》の老女があった。
「まあ、これは区長さん。それにサクラ先生に……」
「今日はめずらしい客人をお連れしました。ここにおられる少年に見おぼえがありますか」
 区長にいわれて、老女は正吉を見た。
「まあ、正吉ではありませんか。うちの正吉だ。まあまあ、正吉、お前はどうして……」
 老女は、正吉の母親であったのだ。
「お母さん」
 正吉と母親とは抱《だ》きあってうれしなみだにくれました。
「お母さん、よく長生きをしていてくれましたね」
「正吉や。お母さんは一度|心臓《しんぞう》病で死にかけたんだけれど、人工《じんこう》心臓をつけていただいてこのとおり丈夫になったんですよ」
「人工心臓ですって」
「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢《はいのう》のようなものを背おっているでしょう。それが人工心臓なのよ」
 正吉は見た。なるほど母親は、背中に妙な四角い箱を背おっている。
 それが人工心臓なのか。正吉は目をぱちくり。


   口《くち》ひげのある弟《おとうと》


 人工心臓は、ほんとの心臓と違って、人間のつくった機械だから、ずっと大きい。だから胸の中にはいらず背中にそれをくくりつけて
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