、また寿命《じゅみょう》がのびるそうだよ」
「じゃあ、お母さん、そういう工合にすると二百歳までも、三百歳までも、長生きができることになるじゃありませんか。うれしいことですね。お父さんなんか昭和二十年に死んじまって、たいへん損をしたことになりますね」
「ほんとうにおしいことをしました。お父さまももう十五、六年生きておいでになったら、わたしと同じように、ずいぶん長生きの出来る組へはいれるのにねぇ。そうすれば、お母さんは、今よりももっと幸福なんだけれど……」
 正吉の母は、早く亡くなった正吉の父親のことをしのんで、そっと涙をふいた。
 そのときだった。りっぱなひげをはやした三十あまりになる紳士《しんし》と、それよりすこし下かと思われる婦人とが、かけこんで来た。
「あ、お母さん。ここへ、兄さんが訪《たず》ねて来てくれたんですって」
「あたしの兄さんは、どこにいらっしゃるの」
 正吉はその話を聞いて、目をぱちくり。
「おお、お前たちの兄さんはそこにいますよ。ほら、そのかわいい坊やがそうですよ」
 母親は正吉を指した。
「えっ。この少年が、僕の兄さんですか。ちょっとへんな工合《ぐあい》だなあ」
「まあ、ほんとうだわ。写真そっくりですわ。でも、わたしの兄さんがこんなにかわいい坊やでは、兄さんとおよびするのもへんですわね」
「正吉や。こっちはお前の弟の仁吉《にきち》です。またそのとなりはお前の妹のマリ子ですよ」
「やあ、兄さん」
「兄さん、お目にかかれてうれしいですわ」
「ああ、弟に妹か――」
 といったが、正吉も全くへんな工合であった。弟妹《きょうだい》に会ったようではなく、おじさんおばさんに会ったような気がした。


   びっくり農場《のうじょう》


 思いがけない母親とのめぐりあいに、正吉少年はたいへん元気づいた。見しらぬ世界のまっただ中へとびこんだひとりぼっちの心細さ――というようなものが、とたんに消えてしまった。
「これからどこへつれていって下さるのですか」
 と、正吉はカニザワ区長やサクラ院長などをふりかえって、たずねた。
「君がびっくりするところへ案内します。ちょっぴり、教えましょうか。日本の新しい領土なんです。ハハハ、おどろいたでしょう」
「日本の新しい領土ですって。それはへんですね。日本は戦争にも負けたし、また今後は戦争をしないことになったわけだから、領土がふ
前へ 次へ
全16ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング