少年は思いのほか元気であった。例の四人組の外《ほか》に、東京区長カニザワ氏と大学病院長のサクラ女史が少年をとりまいていたが、少年は三十年前の話をいろいろとした。そして三十年後の東京がどんなに変っているか、あまりに変っているのでそれを見物しているうちに気がへんにならないであろうかと心配したりした。
「大丈夫です。あたしがついていますもの。すぐ手あてをしてあげます」
 と、女医サクラ博士は、すぐにこたえた。
「ねえ、小杉君。君はまず、はじめにどこを見物したいですか」
 と、カンノ博士はきいた。
「そうですね。まず第一に見たいのは、三十年前に、ぼくの住んでいた東京の銀座を見たいですね。同じところを歩いてみたいです」
 少年は、なつかしげに銀座の名をいった。
「よろしい。ではすぐ出かけましょう。しかし、あなたは少々おどろくことでしょう」
 一同は正吉を連《つ》れて出た。
「ここは見なれないところですが、銀座の近くでしょうか」
「さよう。銀座までは三キロばかりはなれています。しかしすぐですよ、動く道路にのっていけば……」
「なんですって。何にのるのですか」
「動く道路です。そうそう、あなた
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